キング・オブ・オイル

キング・オブ・オイル マーク・リッチ~アメリカを揺るがした最強トレーダー~
ダニエル・アマン著、田村源二訳

本書はか つてキング・オブ・オイルと言われたマーク・リッチ(商品トレーディング会社のマークリッチ社(現グレンコア)創業者)の生い立ちと、彼が行った様々なト レード、そして脱税でジュリアーニに告発され、アメリカを去り、スイスに逃亡し、そこでビジネスを展開する様子、そしてクリントン大統領によって恩赦が与 えられるまでが描かれています。

前半はドイツのホロコーストから逃れてアメリカに移民したユダヤ人リッチが、大学を中退して当時最大の商 品トレーディング会社であったフィリップブラザースに入社し、そこで頭角をあらわすまでが描かれています。どこにでもいそうな普通の青年が、イラン相手に 大型の石油貿易を行った様子、そしてイランのシャー(王様)に取り入って、イラン原油のトレードで大きな利益を上げる事が描かれています。
しかし 当時のフィリップブラザースの方針に不満を持ち、飛び出してスイスに自らの会社を作り、危険を省みず様々な国と石油を中心としてトレードを行い、石油の 「スポット市場」を作り上げ、莫大な利益をたたき出すさま、その裏側が余すことなく描かれています。さらにジュリアーニに告発され、祖国アメリカを追われ るまで。

特に敵対的であったイランとイスラエルの間を取り持ち、スエズ運河が紛争により閉鎖された時、イラン原油をイスラエル経由で流す 極秘パイプラインを建設し、一部をイスラエルに流すことで「ウイン・ウイン」の関係を築き上げ、イラン革命によってイランのシャーが亡命したあとでも、ホ メイニのイスラム政権とも独占的な地位を築き上げたその手腕。ただ、それによってジュリアーニに目を付けられてアメリカを追われることになるのですが。。 そしてスイスを中心として紛争地域を中心としてリスクを省みずにトレードを行い莫大な利益を稼ぎ出す姿。そこには下記の「獅子のごとく」を読んでいても思 うことは、リスクが巨大なときに積極的にリスクをとり大きな利益を出した人に対するリスクをとらなかった人の反応はどこも一緒だな、と。リスクが報われた のに、それを「不正な利益だ」と騒ぎ立てる向きのなんと多いこと。

さらにジュリアーニという暗黒な裁判官の実態。本来簡単にリッチを拘束 できたはずなのに、「騒ぎを大きくして目立つためとしか思えない」ような行動をとり、彼の目論見どおりメディア露出が増え、権力を掴みにいく姿。しかも彼 が告発したその脱税などの犯罪も、法的根拠があいまいで恣意的であった点。しかしジュリアーニという人、ほんとひどい人だと思います(本書には出てません が、ゴールドマンの本のときも書きましたが、無罪であったフリードマンを騒ぎ立てて有罪にした件も含め)。日本の検察に通じる、「みずからの目的のため に」無罪の人間を有罪しにして騒ぎたてる姿は権力に取り付かれた人間の暗黒の一面が垣間見えます。
また、彼の元妻デニーズ・リッチについてや、 ジュリアーニのためにアメリカに入国できず、自らの最愛の娘が病気によって若くして亡くなったときに傍にすらいけず、その葬式にもでれなかった事、デニー ズが自らの音楽の道を進み始めた後の家庭事情、そしてクリントンによる特赦(イスラエルからの申し送りのことまで)の裏側も描かれています。

本 書を読んでいて思うのは、石油という一コモディティながら、現在生活に不可欠な商品であるがため、禁輸処置に苦しむ南アフリカに対して足元をみて値段を 吹っかけ、諸手に粟の巨大な利益をたたき出せた、といったことに代表される、単なる数字としての「原油価格」とは違う、生活にリンクした石油という商品の 特性。そしてその特性を知り尽くしているが上に巨額の利益をたたき出した、リッチという男のすごさ。

もう一つ、本書は触れていませんが、 間違いなくこうしたトレードの裏にはそれにファイナンスをつけた銀行がいるはず。本書では「バンカメ」「パリバ」とかしか出ませんが、紛争地域での原油決 済を行っていたともおもえず、間違いなくBCCI(バンク・オブ・クレジットアンドコマース・インターナショナル)等が絡んでるんだろうなあ、とも思いま す(とはいえ、リッチは用心深い人なので、その危険性は十分察知していたと思いますが)。ただ本人は「武器は扱ったことはない」といってますし、スイス国 内では合法とされているところでビジネスをしていましたから、ほんとのところはわかりません。前にメタルトレーダーにはソロモンブラザースがリッチと取引 をしていることが描かれていましたが。

しかし今では日常的に「WTI原油が~」といった「無味乾燥な」ニュースが流れますが、その裏側で 様々な駆け引きが行われ、巨額のマネーが流れ、実際に物が流れている、本物の”貿易”とまた、70年代から90年代にいたるグローバル化の裏側が見える、 とっても面白い本だと思います。

source: http://ttori.exblog.jp/15293600/

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