【書評】伝説の商品トレーダー、マーク・リッチ-広がる壮大な暗闇

10月15日(ブルームバーグ):遠い昔、古代アテネの法廷では、おごりは犯罪であり、判事らははばかることなく有罪を言い渡した。処罰はさらに上級の権力者の手に委ねられることもあった。

ギリシャ神話では、「おごりの後」には、主神ゼウスがガチョウの姿でこの世に遣わした天罰の女神ネメシスがやって来る。巨万の富を誇ったクロイソス王でさえネメシスを買収することはできなかった。

ダニエル・アマン氏著の「ザ・キング・オブ・オイル(The King ofOil : The Secret Lives of Marc Rich)」は、米国、イスラエル、スペインの国籍を持つ資産家の商品トレーダー、マーク・リッチ氏が、クロイソス王が成し遂げられなかったことをいかに して実行し、そのガチョウを料理したかを描いた物語だ。既に知られている内容も多い。リッチ氏は石油のスポット市場の投資家で、知能犯として米国で20年 近くにわたって最重要指名手配されていた逃亡者だった。

リッチ氏の協力で執筆されたアマン氏著の伝記は、窮地を脱する方法を小気味よく説く入門書であり、米連邦政府に起訴されたビジネスマンにとっては必読の書だ。米国の経済犯罪の服役囚の涙を誘うのは間違いない。

詐欺や恐喝、イランの米大使館人質事件をめぐる危機的状況下での敵側との取引、一連の違法な原油取引で得た収入の所得税に関する4800万ドル(約 44億円)を超える脱税など51の容疑に問われていたリッチ氏が、クリントン元米大統領をいかに説得して恩赦を獲得したかについて、読者は知ることにな る。この原油取引は1980年代初めに世界の市場を混乱に陥れた。

潤滑油となったのは、金と人とのつながりだったと、アマン氏は指摘する。

強欲と悲哀

そしてそれは、胃が痛くなるような強欲と悲哀の物語の前菜にすぎない。スイスのヴェルトヴォッヘ誌の経済記事編集者であるアマン氏は、あらゆる種類の 札付きの人々を織り交ぜて描く。二枚舌のワシントンの政治家やハリウッドのハスラー、イスラエルのスパイにアパルトヘイトの推進者たちだ。多種多様なアフ リカの独裁者たち、賞金稼ぎや米国の司令官まで登場する。

中南米の革命家ゲバラも「友情出演」する。リッチ氏はこの人物を「エネルギッシュで陽気だった」と振り返っている。

アマン氏はリッチ氏と30時間超にわたる単独インタビューを敢行。「リッチ氏は自分を哀れむ様子をこれっぽっちも見せず『わたしは最大の悪魔と表現さ れていた』とわたしに言った」と書いている。「リッチ氏の率直な物言いに慣れている人々は、彼が大げさな表現はしないことを知っている」。

アマン氏はこう続ける。「彼には強みがあるかもしれないが、能弁さはその1つではない」。「後悔」もだ。

リッチ氏は「われわれがやったことはすべて合法だった。スイス企業としてイランやキューバ、南アフリカ共和国と事業を行った。これらの事業は、スイスの法律に基づけば完全に適法だった」と語る。

悪党やならず者

リッチ氏はアマン氏に対し、他の考え方をする者は「ばか正直」であり、悪党やならず者たちを数百万ドルに上るわいろで懐柔して取引を行ったことに対して「全く」良心の呵責(かしゃく)を感じないと断言する。

アマン氏はリッチ氏の許可を得た上で「マーク・リッチ社は、わいろ、非常に多額のわいろを支払わなければどの取引も実際に成立させることはできなかっただろう」と書く。

リッチ氏は金銭的インセンティブをこう正当化する。「わいろは事業を可能にするために支払われたが、その金額は他の人々が喜んで事業に取り組もうとす る場合の水準とそう変わらない」と。リッチ氏はこの金に「チョコレート」という暗号名を付け、アフリカや中東全域のビジネスマンや政治家にばらまいてい た。

暗闇の正体

この本は心理的なスリラーだ。ページをめくるごとに壮大な暗闇が広がっていく。マーク・デービッド・リッチという暗闇だ。アマン氏が賞賛に値する現代の「ファウスト博士」と表現するこの人物の魂にとって深い物思いにふける暇はない。

アマン氏は自身のテーマを弁護するためにこう書く。「ファウスト博士は、『何が最も深い部分で世界を結び付けているか』を発見するために常識を打ち破 る科学者を象徴している」。リッチ氏は「限界を押し広げ、タブーを破りたかったから取引の方法を精密に完成させた。そして、彼の力は世界の『悪魔たち』と の取引を通じて獲得したものだ」。(A・クレイグ・カピタス)

(A・クレイグ・カピタス氏はブルームバーグ・ニュースのシニアライターです。この評論の内容は同氏自身の見解です)

著書情報:

“The King of Oil: The Secret Lives of MarcRich” is published by St. Martin’s Press (302 pages,$26.99).

記事に関する記者への問い合わせ先:A. Craig Copetas in Paris at ccopetas@bloomberg.net.

記事に関するエディターへの問い合わせ先:Manuela Hoelterhoff at mhoelterhoff@bloomberg.net.

Source: http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90970900&sid=aSLUBIlRuv7A

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